Innovation

イノベーションネーション「シンガポール」には現業の周辺諸国マネジメント以上の潜在力がある。

シンガポールには、多様性があり、熱気があり、オープンマインドな人材も集結しています。One&Coは、そんなシンガポールでのイノベーションを考えるに際し、“イノベーションネーション”たる所以の理解が欠かせないと考えています。それは簡単なことではないと思いつつ、まずは最前線を知ることから始めるため、シンガポールのイノベーションエコシステムと深く向き合っているICMGシンガポールの辻さんに話を伺いました。

Profile
ICMG PTE LTD

辻 悠佑さん(Director)
京都大学・大学院工学研究科を卒業後、J.P.Morganを経て、ICMGに入社。ICMGでは、多数のコーポレートイノベーション(企業変革 /トランスフォーメーション・イノベーション創出・新規事業開発等)プロジェクト(複数の上場企業の社長直轄プロジェクトも含む)をリードし、且つ、自社のシンガポール事業立ち上げ・成長加速を実行。大学も含む各種イノベーションプログラムでのメンター・ジャッジ、スタートアップのアドバイザー等にも従事。世界にとって存在意義のあるイノベーションを共創型で創り出すことを目指す。

――まず、ICMGシンガポールの事業概要について教えてください。

辻さん:ICMGシンガポールは、世界にとって存在意義あるイノベーションを創り出すという使命感を持つ、コーポレートイノベーションアクセラレーターです。

私たちは、コーポレートとのイノベーションパートナーシップに基づき、多様なステークホルダーとの共創(Co-Creation)型でのイノベーション創出をリードしています。事業としては、各コーポレート毎にカスタマイズしたコーポレートイノベーションプログラム(ICMG Corporate Innovation Program)を提供する事業と共に、複数のコーポレートに対するイノベーションプラットフォーム(ICMG Innovation Platform)をサービスとして提供する事業を展開しており、シンガポールのイノベーションエコシステムの中心地であるBlk71にもオフィス兼コラボレーションスペースを持ちながら、世界にとって存在意義あるイノベーションを創り出すという高い視点を持って事業活動を展開しています。

自分自身、成長するアジアマーケットを常に感じながら、世界を変えたいという想いを持つ多様な人材がオープンスタンスでつながるシンガポールに躍動感を感じつつ、日々刺激を受けています。

――「多くの日系企業は市場の成熟と共に現業での成長に限界を感じ、オープンイノベーションに向き合っている」、そんな話をよく聞きます。

辻さん:そうですね。多くの経営者でイノベーションに対する切実さは高まって来ていて、イノベーションは必要不可欠であるという認識が高まっていると思います。今はもう、レッドオーシャンに直面しているという課題認識だけでなく、そもそもの現業自体が破壊され、消失しかねないという課題認識まで持つ企業が、ほぼ全ての業種業界で増えていて、もはや、イノベーションとは「現業の経営」の国内市場の縮小、競争激化、収益低減、それら以上の強烈な危機感を持って推進すべきものになってます。企業にとっては、未知の世界から創造と破壊が興る時代であることを前提に、経営者の覚悟を伴った経営自体の再定義が求められていて、重要経営課題となっています。

――未知の世界から創造と破壊が興るという考え方にはとてもワクワクしつつも、経営視点では課題になる側面がある。そのあたりをもっと理解していきたいです。辻さんの言う「経営自体を再定義」は例えばどんなことでしょうか。

辻さん:経営自体を再定義するとは、現業とは異なる価値観のもとでイノベーションの目的・戦略をどう定義するか、イノベーションのアイデア・プロセスの判断基準・KPIをどう設定するか、イノベーションに最適なプロセス・プログラム・場・人材制度・組織等をどうデザイン・実行するか、現業の経営とどう連携してどうバランスをとるべきか、イノベーションポートフォリオをマネージしながらどう成果まで加速していくか、等の再定義であって、ここ数年で多くの経営者が自らの仕事として実践もしています。

――なるほど。経営者レベルでの取り組みが進むと決断も早そうですが、自社のみでこうした経営課題に立ち向かうのには限界もありそうな気がします。自前主義から脱却できない企業は多そうですが。

辻さん:そうですね。そのような背景もあって現在は、イノベーションにおけるパートナーシップが重要視されてきていると思います。世界中で創造をリードするイノベーター・スタートアップ、それを加速するイノベーションアクセラレーター、イノベーション経営のアドバイザー・デザイナー・共同運営者、イノベーションエコシステムのハブとなるイノベーションシティ・政府機関等、とのパートナーシップに多くの企業が取り組み始めていて。自社のイノベーションに関する重要課題に対して自社以外の世界中が、自らの潜在的な経営資源であるという観点で取り組むべき時代になったのだと思います。

――日系企業がイノベーションに関する重要課題に取り組むために必要なことは何でしょう。お伺いできますか。

辻さん:はい。ポイントは次の3つにまとめられます。

①創造と破壊の時代を前提とした強烈な危機感
強烈な危機感がイノベーションを「必要不可欠」なものとし、経営としての覚悟を生み出す。更には、現業の活動よりも常に弱く、潰されやすい立場にあるイノベーションを守り、育て、加速する。やるリスクよりもやらないリスクを議論の俎上にのせることも可能となります。創造と破壊の時代の強烈な危機感、そこから導き出される経営として重要なイノベーションの方向性に立脚した様々な活動を展開する企業は強いと思います。

②パートナーシップモデル
イノベーションには、①イノベーション経営の確立、②0→1活動の絶え間ざる実践、の2つの重要要素があります。このそれぞれについて、重層的なパートナーシップが求められます。パートナーは世界中にいて、自社以外の世界中が自らの潜在的な経営資源である、という観点で取り組むべき時代であり、上述の2つの重要要素に関する、自社らしいパートナーシップモデルを追求して行くことが大事です。

③共創(コクリエーション/コクリエーター)
最後に、コーポレートイノベーションを担う人材についてです。近年、スタートアップイノベーションの手法が体系化され、コーポレートイノベーションに取り込む流れも顕著になってきています。一方で、大企業で長年働く人材にスタートアップ人材になることを強いて「できないことをやり続けさせられる」形となり、出口が無い中で疲弊していくパターンも見受けられます。コーポレートとスタートアップの本質的な違いは現業があることです。財務資本のみならず、非財務資本がある。コーポレートイノベーターは創造(スタートアップイノベーション・クリエーション)のみならず、世界の創造者から着想を得ながら自社の多様な資本との共創(コ・クリエーション)を目指す方向性があることも一つの選択肢です。

――なるほど。②と③については、One&Coという「空間」が様々な局面で機能できそうですね。今後も意識しながら仕掛けを用意していきたいと思います。多くの経営者がイノベーションに対する強烈な危機感や覚悟を持ち、新しいビジネスモデルによる持続的な成長に取り組む中、シンガポールを戦略的なイノベーション拠点、もしくはパートナーとして重要視する流れが増えていると思います。

イノベーション軸でのシンガポールをどのように捉えているか、お聞かせいただけますか。

辻さん:シンガポールは、国土が極めて小さく資源も限られている中、国家としての生き残りをかけ、存在意義を高め続けなければならないという強烈な動機が大前提にあります。これまで国家主導でトレーディングハブからファイナンシャルハブへ。そして現在はイノベーションハブに転換してきています。

――イノベーションハブとは、漠然としたイメージは湧くのですが、具体的にどのような特徴があるのかお聞かせいただけますでしょうか。

辻さん:シンガポールが目指すイノベーションハブには、3つの特徴があります。

①(世界の)イノベーションのアーリーアダプター
アーリーアダプターとは、切実なニーズがあるため実績が無い段階から製品・サービスを受け入れようとする集団を指しますが、シンガポールはまさにイノベーションにおける世界のアーリーアダプターです。シンガポールは、世界のイノベーションを実績が無い段階から受け入れ、シンガポールという地を「実験場」として位置づけ、多様な実験を促進し、その実験成果を実績としてショーケース化して、周辺諸国・グローバル展開を加速する、というイノベーション戦略に従い、運営されています。実験のための一時的な規制緩和の法制度化も進んでいます。

②デジタルイノベーションの社会実装
次に、シンガポールの特徴は、デジタルイノベーションにあります。シンガポールは国家としてスマートネーションをビジョンに掲げ、データを活用した様々な実験環境を整備し、デジタルイノベーションの社会実装を後押ししています。昨年、バルセロナで行われたSmart CityExpo World Congress において、シンガポールはthe smart city of 2018 に選出されました。政府機関の関係者も、引き続きデジタルイノベーションの社会実装という観点で世界をリードしていく、と口を揃えて話しています。

③アジア・グローバルへのグロース&オープンイノベーションハブ
最後に、シンガポールの特徴は、周辺国に切実な課題を持つ市場があることです。シリコンバレー、イスラエル等も含めて世界におけるシンガポールのポジショニングについて問われることも多いですが、それらの地域のプロフェッショナルから見てもこの特徴は強く認識されています。シンガポールには、統括会社設置に関する優遇税制が設定されていますが、税制のみならず、イノベーション戦略に従い、シンガポールでの実験結果を周辺国に展開するための政府機関も存在する等、イノベーションを後押しする専任組織や補助金・プログラムが多数、設定されています。また、多くの政府関係者は、より先の未来には世界中が都市化されることを見据えていて、現在のみならず将来の切実な課題も見据え、都市国家シンガポールの存在価値を高めようとしています。シンガポールは、国家主導でイノベーションハブへのトランスフォーメーションを推進していて、その中で、多くのコーポレートもシンガポールを戦略的なイノベーション拠点として捉え、取り組みを始めています。

イノベーションハブとしてのシンガポールは、イノベーションのアーリーアダプターであり、次の時代のビジネスモデルを実験する等の様々な点において、日系企業にとってイノベーションの戦略拠点化の検討に値する場所であると思います。

――なるほど。国を挙げての取り組みであるだけでなく、地理的な価値も大きいですね。イノベーションの戦略拠点としてシンガポールを検討するにあたり、活用の可能性としてはどのようなものがあるか教えて頂けますでしょうか。

辻さん:現時点で考えられるものとして、下記の4つが挙げられます。

①アイディエーション・戦略プランニング拠点
シンガポールは、イノベーションに関して多様な人材が集まり、情報が集まります。また、地の利も活かして、インド、オーストラリアなどの含めたアジア周辺国に直接的に出向き、切実な課題・解決策とのフィット感への実感値を持つことができる。机上ではなく、人とのインタラクション・対話を通じた、リアリティあるアイディエーションが可能となり、戦略検討やビジネスモデルアイデア検討に活かしていく事例が出てきています。

②ビジネスモデル実験拠点
切実な課題を持つマーケットに隣接するシンガポールにて、次の時代の/未来のビジネスモデル /スタートアップをサーチし、実験し、ショーケース化する拠点として活用する。アジアでの成長創りのみならず、日本国内ビジネス(現業)への還元・現業トランスフォーメーションの実現という観点での活用も期待できます。

③顧客開発拠点
シンガポールには統括拠点が集結しており、アジア・グローバルの意思決定者へのリーチが可能となります。シンガポールでのプロダクト・サービスのプロトタイプ開発から顧客開発につなげていくことが期待できますし、実際に、そのプロダクト・サービスがそのまま採用されるケースのみならず、それらの活動から、顧客からイノベーションパートナーとして認識され、より深い顧客関係構築に成功した事例が出てきています。

④人材開発拠点
最後に、これからのオープンイノベーションの時代に向けて、日本国内でのプランニング中心の人材開発だけでなく、異なる地でのオープンイノベーションの実践を通じた人材開発への要請が高まっています。現在、シンガポールでは、そうした要請に基づき、多くのイノベーション創出型人材開発プログラムが実施されています。

――One&Coとしても、これらの可能性は積極的にサポートしていきたいです。特に人材開発については日本とシンガポールの橋渡しになれるよう、マッチングの機会を大事にしていければと。

最後に、コワーキングスペースOne&Coを通じて期待したい未来があればお聞かせください。

辻さん:今後とも未知の世界から創造と破壊は更に加速する中で、強烈な危機感を持ち、経営としての覚悟を持ってイノベーションを推進している企業が増えて来ています。コーポレートイノベーションの視点で、シンガポールの重要性の認識、注目度もますます高まっています。ICMGシンガポールは、引き続き、世界にとって存在意義あるイノベーションを創り出すという使命感を持ち、コーポレートイノベーションアクセラレーターとして多様なステークホルダーとの共創(Co-Creation)できる機会を創り出していきたく思っております。

この度、互いに使命感を共感し合うことができるOne&Coとのパートナーシップが実現し、大変、嬉しく思っております。ICMGシンガポール、及び、One&Coはイノベーションネーションであり、未来のビジネスモデルの実験国であるシンガポールにおります。我々がシンガポールにいることを象徴するような、既存の価値観に囚われない、チャレンジングで、実験的なイベント・プログラムも含めて、One&Coのメンバーと共に創り出していければと思っています。

そして、シンガポールを軸にコーポレートイノベーションを共に加速し、世界にとって存在意義あるイノベーションを作り出すことに繋げていければと思っております。



辻さんらICMGシンガポールは、コーポレートイノベーションアクセラレーターとして、多様なステークホルダーとの共創(Co-Creation)型でのイノベーション創出をリードしています。彼らが連携するローカルパートナーは、政府機関、インキュベーター/アクセラレーター、スタートアップと多岐に渡ると言います。そんなパートナーと先行的に関係性をつくるスタンスやフロンティア精神にこそ、イノベーションネーションのシンガポールを理解するヒントがあるのかもしれません。“Platform for Innovative Businesses”でありたいOne&Coとしても、今後多様なローカルパートナーとの連携を積極的に推進していきたいと思います。

2019.09.05 | text by TAKAHIKO ITO

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